

2025年2月17日、京都大学は東京外国語大学とともに世界展開力強化事業(アフリカ)の最終シンポジウムをハイブリッド方式(オンラインおよび東京外国語大学アゴラグローバルプロメテウスホールでの対面)にて開催しました。
本シンポジウムは、5年にわたる世界展開力強化事業(アフリカ)が今年度で終了するのに際して、日本で同事業を実施する10大学が集まり、これまでの成果を振り返りました。日本の大学の職員や学生、その他組織を含む合計170名が参加しました。
本シンポジウムでは、第一部で学部生による日本・アフリカ交換留学シンポジウム、第二部で実施大学が事業を振り返るシンポジウムを開催しました。
第一部では、日本及びアフリカの計11名の留学経験者が、それぞれの留学体験報告について報告しました。日本人留学生はボツワナやガーナを含む5カ国へ渡航し、アフリカからはカメルーンやタンザニアを含む4カ国からの留学生が日本で学びました。日本人学生にとって、アフリカでの留学生活は専門分野の学びを深めるだけでなく、新しい知見や価値観を共有する貴重な機会となりました。一方でアフリカからの留学生にとっても専門分野に加えて、日本の歴史や食文化を体験する貴重な機会となったようです。どの学生にとっても、今回の留学は忘れられない経験となり、リーダーシップやコミュニケーションなど、多くの側面の能力を伸ばす機会となりました。留学後の目標として、再び留学先を訪れて日本とアフリカの出身国をつないだり、さらなる研究を志すものはふたたび留学を目指したりするなど、それぞれ交換留学で得た知見を今後のキャリアに活かそう意欲を燃やしています。このように日本とアフリカ間の知的交流が促進されました。
第二部では、文部科学省高等教育局の松坂浩史文部科学戦略官および外務省アフリカ部アフリカ第一課の西野修一課長より、担当部署を代表してご挨拶をいただきました。松坂戦略官からは、大学の国際化や国際対応力の向上についてのお話があり、特に「世界展開力強化事業」の重要性が強調されました。また、西野課長からは、今年開催されるTICAD9(アフリカ開発会議)に触れ、今後ますます高まるアフリカの重要性やアフリカと日本の若者の交流の大きな意義について言及がありました。さらに、TICAD9のテーマである「Concrete Innovative Solutions with Africa」に基づき、特に若者や女性とともにアフリカの経済成長を促進する取り組みの必要性についても言及されました。
続いて各大学から展開力事業を通してのベストプラクティスの報告がありました。秋田大学と九州大学からは、南部アフリカにおける持続可能な資源開発を先導する人材の育成を目的とした「スマートマイニング」プログラムについて報告がありました。本プログラムでは、情報学を活用した最新の資源開発手法を学ぶ専門科目群を整備し、学生が実際の資源開発現場で学ぶ機会を提供したほか、アフリカの大学との学術ネットワークを強化し、国際的な人材育成の基盤が築かれました。
宇都宮大学ではアフリカの潜在力と日本の科学技術を融合させ、SDGsの達成に貢献する人材を育成するプログラムを展開しました。インターネットを活用した集中講義を実施し、成績に基づいて相互交流する学生を選抜し、その学生に対し、臨地研究を開講することで実践的な学びを提供しました。特に、成績優秀者を選抜し、日本へ招へいするシステムを導入し、教育の質保証を強化した点がベストプラクティスとして指摘されました。
京都大学と東京外国語大学からは、アフリカの12の大学との学生交流協定を締結し、長期・短期留学プログラムや国際合同コンフェレンスを開催することで、学生の国際的な視野を広げるとともに、日本とアフリカの学術ネットワークを強化したとの報告がありました。交換留学を通じて一度日本で学んだ学生が、修士や博士の課程で再び日本を訪れるケースも見られ、継続的な人材交流が実現しました。これらの取り組みを通じ、日本とアフリカの大学間の協力は一層深まり、持続可能な発展に向けた国際的な人材育成の新たな可能性が広がりました。
また、東京農業大学からは、アフリカにおける食と栄養の課題に対応できる次世代リーダーの育成を目的として、オンライン交流や「African Cafe」などを通じた学生間の異文化交流の促進に加え、海外派遣を実施し、現地の農業や食料事情を学ぶ機会を提供したとの報告がありました。さらに、アフリカの大学や企業との共同研究を進め、地域の食料生産の向上や栄養改善に貢献する取り組みを展開しましたと指摘されました。
長崎大学では、プラネタリーヘルスの実現を目指した日本アフリカ戦略的共同教育プログラムを実施し、オンライン講義に加え、短期・長期留学プログラムを提供しました。受け入れ学生が西日本生理学会に出席し、最終プレゼンテーションに選出されるなど、高い学術的成果が報告されました。
広島大学では南北アフリカとの互恵的パートナーシップ構築を目指し、トライアングル海外学習プログラムを実施しました。COIL型教育を活用したオンラインプログラムを提供し分野横断的なコースを提供することで、学びの場を広げました。また、グループワークを通して、派遣や受け入れ前に互いの国の文化を学ぶ良い機会になりました。
北海道大学からはアフリカと日本をつなぐ次世代の人材を育成する「国際獣医学・保全医学教育プログラム」について報告がありました。本プログラムは、One Healthアプローチに基づく保全医学のカリキュラムを特徴とし、学生が主体的に学ぶセルフデザインプログラムを導入することで、派遣学生が多様な視点から保全医学を学ぶ機会を得ました。
山口大学からアジア・アフリカにおけるOne Health問題の解決に向け、感染症対策を担う獣医師の育成プログラムを展開しました。分野横断的な大学間連携を強化し、学生同士の交流を促進するとともに、アフリカ関連の講義やワークショップを実施しました。これにより、アフリカに関心を持つ学生が増加するなど、学びの広がりが生まれています。
また、日本・アフリカ大学間の学生交流を進めるプラットフォーム構築を行ってきた京都大学・東京外国語大学からは、日本の大学間の横連携を通じて40を超える大学のネットワーク形成、日本の大学とアフリカ大学との交流の推進、またアフリカに関わる日本人及びアフリカ人の高度人材の育成を共通の関心事項とする実務組織との関係の深化が進められたことについて紹介がありました。さらに日本とアフリカで知られてこなかった双方の大学の詳細な情報の検索機能付きデータベース、また特に日本側で懸念の強いアフリカ諸国での安全衛生情報に関するデータベースの整備も進められたことが紹介されました。いずれも、日本で初めての営為であり、事業終了後もその成果は、ベスト・プラクティスとして将来に向けて維持・拡充されていくべきだと強調されました。
最後に東京外国語大学の武内進一教授より、世界展開力強化事業を振り返り、実施大学が互いに交流することで学び相乗効果が生まれたこと、さらに学生間の交流により大きなインパクトが得られたことを報告されました。