本記事は、第1回アフリカ実務組織・大学交流会(2022年1月17日)の、アブディン・モハメド氏による講演内容を文字起こしし、編集したものです。アブディン氏は、現在参天製薬に勤務されていますが、他にもふたつの活動をされています。2008年にアブディン氏が創設した、NPO法人スーダン障害者教育支援の会で代表理事を務め、もうひとつは、東洋大学の国際共生社会センターの研究員に在籍しアフリカ政治に関する研究をされています。

アブディン・モハメド氏(参天製薬株式会社 企画本部 CSR 室 グローバル インクルージョン戦略企画担当)

本日は、自分がどのようにキャリアをたどったのか、その背景のお話をします。アフリカからの留学生は、これからお話しする三つの条件を満たせば誰でも同じような境遇になれるのではないかと思います。
ひとつめは、「世界観の共有」として、日本社会を深く理解することができる環境にめぐまれることです。日本社会を深く理解するためには、日本語を高いレベルで学ぶ必要があります。日本語を学ばずに留学期間を終えてしまう留学生が多いのですが、そのような学生は帰国後に日本との関係性が途絶えてしまうケースが多く、そのような学生をいままでに多く見てきました。私の場合は、たまたま視覚障害を持っていたがゆえに、日本語を覚える必要性に迫られ、そしてしっかりと日本語を学べる環境がありました。日本語のあいまいな表現に潜んでいる微妙なメッセージの違いを理解することができるようになった結果、大きな摩擦がなくなり、日本の理解が深まったり、日本が持つ課題を捉えたりすることができるようになりました。もちろん、英語での教育環境の向上は欠かせませんが、留学生には日本語がしっかりと学べる環境を提供し、日本での生活の質を向上させることは大事なことだといます。

ふたつめは、「課題意識の共有」として、いかに個人の持っている世界観や課題を仲間と共有してアクションをおこせるか、です。日本での留学中は、学習環境を整えてもらうことができました。書籍を読み上げる音声入力ソフトを導入してもらったり、そのソフトにテキスト入力する臨時職員をつけてもらったりしました。このことから、視覚障害者は質の高い教育が受けられ、知識にアクセスできる環境さえあれば、ナレッジベースの仕事で活躍できるのではないかと思いました。それならば、スーダンの状況を改善したいと考え、大学や視覚障害者の友人と2006年から支援活動を始め、スーダンで視覚障害者の大学生が、PCなどを学べる情報教育環境を整えました。この環境で学んだ卒業生は現在、教員、弁護士、翻訳者、プログラマーなど多様な業務に携わっています。この活動が拡大し2008年にNPO法人化しました。それぞれやりたいことがあってやりたいことができるような環境さえあれば、視覚障害者はさまざまなところに進出できるはずです。この活動をサポートしてくれたのは日本の若い人たちでした。日本財団から助成を受け、日本の大学生とともにスーダンへ行きました。支援する、支援されるの関係ではなく、同じ若者としての交流を体験しました。スーダンへ行った日本の大学生たちは現在、JICAや国際NGOに就職したり、地元の課題に思いをはせて地域おこし事業に携わったりしています。
そして、三つめは、「日本社会の理解を深め、解決したい課題を仲間と共有したうえで、その経験をいかにキャリアにつなげるか」です。このように自分の世界観や課題を共有することによって、自分にとっても、アフリカの人々や一緒に活動をした日本の若者にとっても、さまざまな経験を積んで良いシナジーを生み出せませたのではないかと思います。私は、大学を卒業してから6年間大学教員をしてきましたが、2020年から参天製薬株式会社に入社しました。参天製薬は、目薬に特化した会社ですが、製薬や研究開発だけでなくソーシャルイノベーターとして、身体の不具合による社会的損失を軽減するという課題意識を持っています。この課題意識と、これまでの私の経験が一致して入社をしました。

日本語を深く学び、仲間といろいろな話をし、課題意識を共有したことでアクションにつながりました。そのアクションの連続と、今の民間企業の一員としての経験は地続きになっています。この入り口は、日本語を学べたことにあるのではないかと考えています。さまざまな境遇にあるアフリカの留学生がいると思いますが、それをいかに日本人の学生と共有できるか、そこからできることがたくさんあるのではないかと考えています。したがって、留学生が日本とすぐに縁が切れないような環境を作っていくのが大事なのではないかと考えています。

アブディン・モハメド氏
(1978年、スーダンの首都ハルツーム出身。生まれた時から弱視で、12歳の時に視力を失う。19歳で来日し、福井県立盲学校で鍼灸を学んだのち、東京外国語大学へ進学。スーダンの南北紛争について考察するため、アフリカ地域研究の道へ。同大学大学院に進み、2014年に博士号を取得。東京外国語大学世界言語社会教育センター特任助教、学習院大学法学部特別客員教授を経て、現在、参天製薬株式会社に勤務する傍ら、東洋大学国際共生社会研究センター客員研究員として研究を続ける。また、エッセイスト、特定非営利活動法人スーダン障害者教育支援の会(CAPEDS)代表理事、ブラインドサッカーの選手としても活躍している。 著書:『わが盲想』(ポプラ社))
(じんぶん堂, https://book.asahi.com/jinbun/article/14343205より)